―「事実・データ」と「論拠・理由づけ」の区別/「反駁」の方法―

 下の写真は、「画像共有・管理サービスImgur(イミジャー)に投稿されたものです。投稿者は、「もう言葉はいらないだろう。花が原子力のせいで先天性異常になると、こんなことが起きるのだ」と書いていますね。

■ Fukushima Nuclear Flowers
(出典)Stanford History Education Group (n.d.). Civic online reasoning: Evaluating evidence.  (2022年5月3日検索)。元々の写真は、福島第一原発から約150km離れた那須塩原市で撮影されたもののようです。

 スタンフォード大学の研究グループは、この写真を使って、「この投稿は、福島第一原発近くの状況を示す強い証拠となるものでしょうか? その理由は?」と高校生に尋ねました。約4割の高校生が「強い証拠になる」と答えたそうです。「何より写真があることが強い証拠だ」というのが多くの理由でした。

 この投稿者の主張を、対話型論証でたどってみましょう。事実・データは「福島第一原発の近く(約150km)で、マーガレットに奇形(先天性異常)が生じた」、主張は「このマーガレットの奇形は、原発事故による放射能汚染によって生じた」と書けますね。では、論拠・理由づけはどうでしょう? この投稿者は、「放射線を受けると、動植物に奇形が生じることがある」という既有の知識をあてはめて論拠として使ったのだと考えられます。
 でも、この主張には論理的に誤りがあります。論拠の「放射線を受けると、動植物に奇形が生じることがある」は、「放射線を受けると(原因)、動植物に奇形が生じる(結果)」という因果関係になっていますね。そして、この投稿者の論証は、「結果」が生じた(事実・データ)ことから、「原因」を推論する(主張)という形になっています。これは、「後件肯定の誤謬(ごびゅう)」という論理的な誤りをおかしているのです。
 というわけで、この投稿者の主張にどう反駁を加えるかを考えてみましょう。ここでは、右側(赤)に投稿者の主張のロジックを描いています。考えてもらいたいのは左側(青)のロジックです。
 まず、「事実・データ」です。少し調べてみると、周辺ではマーガレットに奇形は生じておらず、また、原発にもっと近い地域でも、そうした奇形は報告されていないことがわかりました。また、「論拠・理由づけ」の「放射線を受けると、動植物に奇形が生じることがある」はそれ自体は正しいのですが、このマーガレットに生じた奇形は「帯化(たいか)」と呼ばれるもので、分裂組織の突然変異などによって生じ、キク科などの植物にわりとよく見られる現象であることがわかりました。
 そこで、①事実・データに対しては、「周辺や原発にもっと近い地域で、こうした奇形は報告されていない」、②論拠・理由づけに対しては、「帯化は放射能汚染に関係なく生じる」という反駁を加えます。③両者と主張をつなぐロジックについて、「対立する主張・異なる主張」は論理的な誤りを含んでいること、もっと多くの事実・データとつきあわせる必要があることがわかっていたので、それをふまえて、①②の反駁を組み立てていったわけです。

■ Fukushima Nuclear Flowersを使った対話型論証モデル