既存の問題を解く(教科)
教科の問題の中にも、対話型論証モデルをふまえたさまざまな問題が出題されています。たとえば、2022年度の大学入学共通テストの「世界史」の第4問 問3には以下のようの問題が出題されています。ここでは、世界史、日本史、物理の問題を事例として、それぞれの教科の問題は対話型論証を用いてどのように整理できるのか考えてみましょう。
世界史(2022年度大学共通テスト世界史B 第4問)
歴史上の出来事や人物に対しては、異なる解釈や評価が生じることがある。歴史評価の多様性に関わる次の文章A・Bを読み、後の問い(問1〜6)に答えよ。
A 次の資料は、イギリス人作家ジョージ=オーウェルがスペイン内戦に人民戦線側で従軍した体験に基づいて著し、内戦のさなかに出版した書物の一節である(引用文には、省略したり、改めたりしたところがある。)
[中略]
上の資料から窺(うかが)えるように、オーウェルは、ヒトラーやムッソリーニの政権と同様に、同じ時期の日本の政権をファシズム体制だとみなしていた。ⓒ世界史の教科書には、これと同様の見方をするものと、日本の戦時体制とファシズムとを区別する立場から書かれているものとがある。どちらの見方にも、相応の根拠があると考えられる。
問3 下線部ⓒについて議論する場合、異なる見方あ・いと、それぞれの根拠として最も適当な文W〜Zとの組み合わせとして正しいものを、後の①〜⑥のうちから一つ選べ。
異なる見方
あ スペイン内戦の時期から第二次世界大戦にかけての日本の政権は、ファシズム体制だったと言える。
い スペイン内戦の時期から第二次世界大戦にかけての日本の政権は、ファシズムとは区別される体制だったと言える。
それぞれの根拠
W ソ連を脅威とみなし、共産主義運動に対抗する陣営に加わった。
X 国民社会主義を標榜し、経済活動を統制した。
Y 政党の指導者が、独裁者として国家権力を握ることがなかった。
Z 軍事力による支配権拡大を行わなかった。
①あ―W、い―Y ② あ―X、い―W ③ あ―Y、い―Z
④ あ―Z、い―X ⑤ あ―W、い―Z ⑥ あ―X、い―Y
この問題が、対話型論証の形をしていることはよくわかるでしょう。また、名古屋大学の「日本史」2020年度入試問題Ⅱの問4にも以下のような問題が出題されています。
日本史(名古屋大学2020年度入試問題Ⅱ)
問4 次に掲げる史料は、豊臣秀吉が中国・明の万暦帝から冠服2を与えられたと記す。その背景として、どのような事実関係が存在するか。また、どのような事実誤認や誇張がなされているか、いずれも史料に即して、論述せよ。
史料
明の万暦帝は日本人との講和を欲しているが、豊臣秀吉は国王の位にはついておらず、日本の王位は、真の国王である天皇が掌握しているのであるから、万暦帝が使節を派遣して秀吉と交渉するためには、万暦帝が日本の天皇の王位を剥奪し、北京から王位を送って豊臣秀吉を日本国王に取り立てる考えである。(戦国期に渡来した宣教師フロイス〈生没1532-97〉の著「日本史」による)
秀吉は日本だけでなく朝鮮も支配し、明の万暦帝から秀吉・吉子夫妻に対し、装束が贈られた。秀吉は大変喜んだが、我が国の風俗を優先して、たびたび着用することはしなかった。秀吉が死去すると、天皇は秀吉に豊国大明神の神号を授け、吉子は、秀吉をまつる神社に装束を奉納するよう指示した。(秀吉等に近侍した梵俊〈生没1553-1632〉の草稿とみられる「豊国大明神縁起稿断簡」〈天理大学附属天理図書館吉田文庫蔵〉による)
秀吉は日本での戦争をしずめ、名声が中華にもひろがったので、明の万暦帝は秀吉を「帝位」につけ、約五〇人分の衣冠などを贈った。そこで秀吉は日本の雄将にこれを分け与えた。私(吉川広家)も思いがけず衣冠の配分に預かった。これを後世に確実に伝えるため、杵築大社へ奉納することとした。(毛利元就の孫で後の岩国藩祖・吉川広家が杵築大社に納めた1597年の寄進状案〈『吉川広家文書之二』909号〉による)
物理(2022年度大学入学共通テスト「物理基礎」第 3問)
次の文章は、演劇部の公演の一場面を記述したものである。王女の発言は科学的に正しいが、細工師の発言は正しいとは限らないとして、後の問い(問1〜3に答えよ)。
王女役と細工師役が、図1のスプーンAとスプーンBについて言い争いを演じている。
王女:ここに純金製のスプーン(スプーンA)と、あなたが作ったスプーン(スプーンB)があります。どちらも質量は100.0gですが、色が少し異なっているように見え、スプーンBは純金に銀が混ぜられているという噂があります。
細工師:いえいえ、スプーンBは純金製です。純金製ではないという証拠を見せてください。
王女は、スプーンBが純金製か、銀が混ぜられたものかを判別するために、スプーンAとBの物理的な性質を実験で調べることにした。
問1では、スプーンAとBの比熱を比較するために、60.0℃にしたスプーンA・Bを同条件の水(20.0℃、200.0g)に入れて水温を比較する実験を行います。また、問2では、スプーンを滑車にかけた状態で水につけて、浮力と密度の違いを示す実験を行います。さらに、問3では、スプーンAから作製された針金AとスプーンBから作製された針金Bについて、それぞれの電気抵抗Rさらに抵抗率ρを求め、その値が金の抵抗率と一致するのかを確認しています。
最後には、なす術がなくなった細工師があわてて逃げ出したところで、舞台の幕が下りるという構成になっています。
これらの問題の対話型論証モデルによる整理は次からダウンロードできます。また、「日本史」の授業の指導案の例も次からダウンロードできます。